【知っておきたい】親御さんの認知症と実家の名義変更

  • 「親が認知症になったら、実家や土地はどうなるの?」
  • 「今のうちに名義変更しておいた方がいい?」
手を取り合って歩く夫婦の写真

 ご高齢の親御さんを持つ方にとって、認知症と不動産の問題は大きな心配事の一つです。結論から申し上げますと、親御さんが認知症と診断された、またはその兆候が見られる場合、不動産の売却や名義変更(生前贈与など)の手続きは非常に難しくなる可能性があります。 しかし、適切な時期に正しい対策を講じれば、将来のトラブルを防ぎ、ご家族の希望に沿った資産管理が可能になります。

 まずはお一人で悩まず、私たち司法書士のような専門家にご相談いただくことが、問題解決への第一歩です。

 この記事では、認知症の親御さんの不動産に関するよくあるお悩みと、その対策について分かりやすく解説します。

なぜ認知症になると不動産の売却や名義変更が難しいの?

 一番の問題は「意思能力」です。

  • 意思能力とは?: ご自身が行う行為の結果を正しく理解し、判断できる能力のことです。不動産の売却や贈与といった重要な契約には、この意思能力が不可欠です。
  • 認知症と意思能力: 認知症が進行すると、この意思能力が低下、または失われてしまうことがあります。
  • 意思能力がないとどうなる?: 意思能力がない状態で行われた契約(売買契約、贈与契約など)や法律行為(遺産分割協議など)は、法律上「無効」です。

「認知症=即手続き不可」ではない!

 ただし、認知症と診断されたからといって、直ちに全ての法律行為ができなくなるわけではありません。医師の診断や日常の状況から、契約内容を理解できる程度の意思能力が残っていると判断されれば、売却や名義変更が可能な場合もあります。しかし、その判断は非常に難しく、後々トラブルにならないよう慎重な対応が必要です。

【重要!】契約が無効と判断されるリスクとは?

 契約時には本人の意思能力に問題がないものとして手続きを進めたものの、将来、何らかのトラブルが起きた際に、裁判で「契約当時に十分な意思能力がなかった」と認められ、契約が無効になることがあります。

 その場合、契約は法的に最初から存在しなかったものとして扱われます。具体的には、既に受け取った代金は返還請求の対象となるなど、契約締結前の状態に戻すことが原則となります。

  • 売買契約が無効だった場合: 買主にお金を返し、不動産を取り戻さなければなりません。もし買主が既に転売していたり、建物を建てていたりすると、事態はさらに複雑化します。
  • 生前贈与が無効だった場合: 名義変更は取り消され、不動産は親御さんの名義に戻ります。将来の相続対策が無駄になってしまいます。
  • 遺産分割協議が無効だった場合: 相続手続きが最初からやり直しになり、相続人間で大きなトラブルに発展する可能性があります。

対策はタイミングが重要!認知症で意思能力を失う「前」と「後」

 親御さんの状態によって、採れる対策は大きく異なります。

【対策1】意思能力がまだあるうちにできること(失われる前)

 意思能力がはっきりしているうちであれば、将来に備えていくつかの対策が可能です。

  1. 生前贈与
    •  親御さんの意思で、お子さんやお孫さんなど特定の方に不動産を贈与し、名義変更します。
    •  将来の相続トラブルを避けたい、特定の人に確実に財産を渡したい場合に有効です。
    • 注意点: 贈与税が高額になる場合があります。また、他の相続人との間で不公平感が生じないよう配慮も検討が必要です。
  2. 任意後見契約
    •  将来、判断能力が不十分になった場合に備え、あらかじめご本人が信頼できる人(推定相続人など)を後見人候補として選び、財産管理や身上監護の内容を契約しておく制度です。
    •  家庭裁判所が選任した任意後見監督人の下で、任意後見人が活動します。
    • 注意点: 契約後すぐに効力が発生するわけではなく、判断能力が低下してから家庭裁判所への任意後見監督人の選任申し立てが必要です。
  3. 民事信託(家族信託)
    •  親御さん(委託者)が信頼できるご家族(受託者)に不動産などの財産を託し、管理・運用・処分を任せる仕組みです。
    •  認知症になっても、契約内容に基づき受託者が不動産を売却したり、管理したりできます。生前贈与と異なり、親御さんのために財産を活用できる柔軟性があります。
    • 注意点: 信託契約の内容設計が複雑なため、専門家への相談が不可欠です。
  4. 遺言書の作成
    •  不動産の売却や生前対策とは直接異なりますが、将来の相続発生時に誰にどの財産を相続させるかを明確にしておくことで、相続人間の紛争予防に繋がります。
    •  意思能力があるうちに作成しておくことが重要です。

【対策2】意思能力が失われた後にできること(失われた後)

 ご本人の意思能力が既に失われている場合、ご家族が勝手に不動産を売却したり名義変更したりすることはできません。その場合は、「成年後見制度」の利用を検討します。

  • 成年後見制度とは?: 判断能力が不十分な方の財産保護や権利擁護のために、家庭裁判所が援助者(成年後見人など)を選任する制度です。
  • 成年後見人の役割: 選任された成年後見人が、ご本人に代わって不動産の売却手続きや財産管理を行います。

成年後見制度を利用する際の注意点

  • 誰が後見人に?: 後見人は家庭裁判所が選びます。ご家族が候補者として申し立てても、必ずしも選ばれるとは限りません。事案によっては弁護士や司法書士などの専門家が選任されます。
  • 売却代金はご本人のもの: 売却して得たお金は、あくまでご本人の財産です。ご本人の生活費や医療費、施設費用などのために使われ、ご家族が自由に使ったり、相続対策として分配したりすることは原則できません。
  • 自宅の売却には裁判所の許可が必要: ご本人が住んでいる(または将来戻る可能性がある)ご自宅や、それに準ずる重要な不動産を売却するには、家庭裁判所の許可が必要です。
    •  一時的な施設入所で、ご自宅に戻る見込みがある場合は、売却許可が出ない可能性が高いです。
    •  ご本人の資産状況や生活状況から、不動産を売却して生活資金や施設費用を捻出する必要性が認められれば、許可が出ることもあります。
  • 売却後も後見は続く: 不動産の売却手続きが終わっても、原則としてご本人が亡くなるまで成年後見人の役割は続きます。
  • 専門家後見人には報酬が必要: 弁護士や司法書士などの専門家が後見人に選任された場合、家庭裁判所が決定する報酬をご本人の財産から支払う必要があります。

家族間の話し合いが何よりも大切

 生前贈与や家族信託、任意後見契約などは、ご家族間でよく話し合い、全員が納得した上で行うことが非常に重要です。

  • 「親が認知症気味なのを利用して、特定の子供が勝手に名義変更したのではないか?」
  • 「他の兄弟に内緒で、親の財産を不当に多くもらおうとしているのでは?」

 このような疑念は、後々大きな家族トラブルに発展しかねません。 専門家を交えて、法的に問題のない方法で、かつ、ご家族全員が納得できる形を目指すことが大切です。

最後に:不安を感じたら、まずは槐事務所にご相談ください

 認知症の親御さんの不動産問題は、法的な知識だけでなく、ご家族の状況やご本人の意思を尊重した細やかな対応が求められます。

  • 「うちの場合はどうなんだろう?」
  • 「何から始めればいいかわからない」

 少しでもご不安や疑問を感じたら、まずは私たち司法書士法人槐事務所にご相談ください。お話を丁寧にお伺いし、ご家族にとって最善の解決策を一緒に考えさせていただきます。早期のご相談が、より多くの選択肢と安心に繋がります。

【記事のポイントまとめ】

  • 結論: 親御さんの認知症と不動産問題は、まず専門家(司法書士など)に相談を。
  • 意思能力が鍵: 認知症で意思能力がないと、契約は無効になるリスク。
  • 対策は時期で異なる
    • 意思能力があるうち: 生前贈与、任意後見契約、民事信託(家族信託)、遺言書作成など。
    • 意思能力が失われた後: 成年後見制度の利用を検討(ただし制約も多い)。
  • 家族の話し合いが重要: 後々のトラブルを防ぐために、オープンなコミュニケーションを。

 この記事が、皆様のお悩み解決の一助となれば幸いです。 ご相談を心よりお待ちしております。

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