「債権譲渡担保」を例に、その対抗要件を具備する手段である「債権譲渡登記制度」について、概要と登記の申請について、司法書士が経験からの注意点を交えてご案内いたします。

債権譲渡担保と債権譲渡登記制度の概要

融資のイラスト

 債権譲渡担保とは、あらためて確認すると、判例や実務上認められてきた担保方法の一つです。具体例としては、債務者が第三債務者に対して有している売掛債権や診療報酬債権などを債権者(金融機関など)に譲渡し、これを担保とするものです。

 一例としては、債務者が債務を返済できなかった場合に備えて債権を譲渡しますが、債務者が期日通りに弁済すれば、譲渡された債権は債務者に戻されるという特約が結ばれます。 また、債務者が債務不履行に陥るまでは、譲渡した債権の取立権限を債務者に留めておくこともあります。

【実例】診療報酬債権の譲渡担保

 より具体的な例として、医療機関(債務者)が金融機関(債権者)との間で流動資産譲渡担保契約を締結するケースを考えてみましょう。

債権譲渡の基本関係図

 この契約に基づき、医療機関は特定の期間に発生する診療報酬債権を金融機関に譲渡します。その上で、金融機関は医療機関に対し、当該診療報酬債権の取立てを委任します。この場合、医療機関が取り立てた診療報酬は、原則として医療機関が任意に使用できるといった特約が付されることが一般的でしょうか。

担保の実行

 万が一、債務者が債務不履行に陥った場合、債権者は譲り受けた債権について、契約にもよりますが、金融実務上は以下のような方法で担保権を実行し、貸付金の回収を図ることが考えられます。

  • 第三債務者からの直接取立てと弁済充当
  • 譲渡担保債権の転売による充当
  • (診療報酬債権の場合)診療報酬債権の回収口座及び代金入金口座の預金出金の停止

対抗要件具備の必要性とその方法

 さて、債権譲渡担保を有効に機能させるためには、「対抗要件」を具備することが非常に重要です。対抗要件とは、債権の譲渡があったことを、債務者以外の第三者に対して主張するための法律上の要件です。

(1)第三債務者への対抗要件(債務者対抗要件)

 債権譲渡が行われた場合、第三債務者(例えば、売掛金の支払者や健康保険団体連合会など )から見ると、本来の債権者(元の債務者)から新しい債権者(金融機関など)へと債権者が変更になったことになります。 このとき、第三債務者が新しい債権者を確実に認識できなければ、誤って元の債務者に支払いをしてしまい、新しい債権者から再度支払いを求められるという二重払いのリスクが生じます。

 そのため、第三債務者は、新しい債権者が正当な債権者であることを示す対抗要件を備えるまで、支払いを拒むことができます。融資担当者様としては、確実に債権回収を行うために、この債務者対抗要件を具備することが不可欠となります。

 債務者対抗要件を具備する方法としては、民法による方法と債権譲渡登記制度による方法があります。

  • 民法の規定による対抗要件具備の方法(次のいずれか)
    • a. 債務者から第三債務者への通知
    • b. 第三債務者による債務者または債権者への承諾
債権譲渡-民法上の対抗要件
  • 債権譲渡登記制度による対抗要件具備の方法(次のいずれか)
    • a. 債権者または債務者による第三債務者への通知と登記事項証明書の交付 (なお、民法の規定によることを妨げない)
    • b. 第三債務者による債務者または債権者への承諾
債権譲渡登記による第三債務者対抗要件

(2)他の債権者への対抗要件(第三者対抗要件)

 融資においては、同一の債務者が複数の金融機関から融資を受けているケースや、他の債権者(例えば税務署など)が存在するケースも少なくないかと存じます。このような状況で、仮に同一の債権が複数の債権者に二重に譲渡された場合でも、その二重譲渡自体が無効になるわけではありません。

 そこで問題となるのが、複数の債権者が同一の債権について権利を主張した場合に、いずれの債権者が優先されるのかという点です。この債権者間の優劣を決定するための要件が「第三者対抗要件」です。 そして、その優劣は、第三者対抗要件を先に具備したかどうかで決まります。

 第三者対抗要件を具備する方法も、民法による方法と債権譲渡登記制度による方法があります。

  • 民法による対抗要件具備の方法(次のいずれか)
    • a. 確定日付のある証書による債務者から第三債務者への通知
    • b. 確定日付のある証書による第三債務者による債務者または債権者への承諾
債権譲渡-民法上の第三者対抗要件
  • 債権譲渡登記制度による対抗要件具備の方法
    • 債権譲渡登記ファイルへの譲渡の登記 (なお、民法の規定によることを妨げない)
債権譲渡-債権譲渡登記による第三者対抗要件

 特筆すべきは、債権譲渡登記は、第三債務者の関与なくして第三者対抗要件を具備できるという大きなメリットがある点です。 なお、民法の規定による場合と登記による場合とで、第三者対抗要件の法的な強弱に差はありません。 あくまで、具備した時点の先後によって優劣が決まります。

 しばしば抵当権設定登記と混同されることがありますが、債権譲渡登記そのものに抵当権のような優先弁済的効力はなく、あくまで債権譲渡の対抗要件を具備しているに過ぎないことに、注意を要します。

債権譲渡登記申請

 そろそろ本稿の主題に差し掛かります。債権譲渡登記制度の活用は、融資の担保保全を確実にするための有効な手段ですが、その申請にあたってはいくつかの注意点があります。

注意点

  1. 譲渡人が法人であること: 債権譲渡登記は、譲渡人(債務者)が法人でなければ登記できません。なお、譲受人(債権者、金融機関など)は自然人でも法人でも登記できます。
  2. 登記官による債権のそのものの審査なし: 登記官は、申請書に記載された債権が実際に存在するかどうかを審査しません。あくまで、申請書に基づいて債権の譲渡があったという事実が公示されるに過ぎません。そのため、万が一、申請書に記載した債権の特定に誤りがあったとしても、それが明白な記載不備でない限り、却下の対象とはならず登記が完了してしまう可能性があります。債権の特定は正確に行う必要があります。
  3. 申請書に不備があれば却下又は取下げのいずれか: 申請書に不備があった場合は、却下(取下書を添付して提出すれば取下げ)となり、補正はありません。※運用上、出頭による申請に限り、補正に近い取扱いがなされています。
  4. 【筆者の私見】対応できる司法書士が不動産登記と比して少ない: これは私見ですが、債権譲渡登記は、対応できる司法書士が比較的限られている印象があります。取扱いの実績が少なく、苦手意識を持っている或いはそもそも取り扱おうとしない者が多いのではないかと、登記所の窓口で見かける司法書士の顔ぶれが、ある程度固定化されていることを覚えるたびに、そのように感じます。

登記事項の例(債権譲渡担保の場合)

 債権譲渡登記に記録される主な事項は以下の通りです。譲渡する債権の種類によって登記事項は変わる点にご留意ください。

  • 譲渡人(債務者たる法人)
  • 譲受人(債権者たる金融機関等)
  • 登記原因日付
  • 登記原因(契約の名称等)
  • 譲渡債権の総額、被担保債権額
  • 登記の存続期間の満了年月日
  • 備考

登記の存続期間について

 登記の存続期間とは、登記の効力を保持することができる期間を指します。言い換えれば、登記により債権譲渡の第三者対抗要件を具備することができる期間ということになります。この期間は、原則として、登記の日から50年以内、それ以外の場合(債務者不特定の債権が含まれる場合)には登記の日から10年以内となります。したがって、この期間内で、登記の効力を保持しておきたい期間を考慮し、その満了年月日を指定する必要があります。

添付書類

 債権譲渡登記の申請に必要な主な添付書類は以下の通りです。

  1. 委任状: 司法書士に申請を委任する場合に必要です(作成後3か月以内)。
  2. 取下書: 後述しますが、スムーズな再申請のために実務上添付することが多い書類です。
  3. 譲渡人である法人の代表者の資格証明書又は登記事項証明書: 作成後3か月以内のもの。
  4. 譲渡人である法人の代表者の印鑑証明書: 作成後3か月以内のもの。
  5. 譲受人である法人の代表者の資格証明書若しくは登記事項証明書(作成後3か月以内)又は自然人の住民票の写しなど
  6. 存続期間に関する書面: 存続期間が登記の日から50年(債務者不特定の債権を含む場合には10年)を超えるときは、その存続期間を定めるべき特別の事由があることを証する書面。

 なお、不動産登記における登記原因証明情報(例えば、抵当権設定契約書など)に相当するものは、債権譲渡登記には原則として不要です。

融資担当者様へのお願い:「取下書」について

 債権譲渡登記の取扱いが初めての融資担当者様は困惑されるかもしれませんが、「取下書」を予め添付して申請することが推奨されます。これは、万が一申請書に却下事由があった場合、不動産登記制度と異なり補正の取扱いがされず、却下がされることになるためです。

 そのような場合に備え、登記官に於いて申請に却下事由があるものと認められた場合には、申請そのものを取り下げる旨の意思をあらかじめ示しておくことで、不備があった際に申請書が登記所から返却され、不備を迅速に修正して再申請することが可能になります(つまり、その場で修正して即日再申請できることが可能となります)。

登録免許税

 申請1件につき、譲渡に係る債権の個数が5,000個以下の場合は7,500円、5,000個を超える場合は15,000円です。

申請先

 債権譲渡登記は、東京法務局民事行政部債権登録課(所在地:東京都中野区野方一丁目34番1号 東京法務局中野庁舎)が全国の申請を一括して取り扱っています。

 ※中野出張所と同じ庁舎ですが、あくまで東京法務局本局の一部局です。

登記申請から完了までの日数

  • 窓口申請: 窓口に出頭して申請した場合、通常は申請時に受付され、当日中(夜遅くなったとしても)に登記が完了します。登記申請の受付は、あくまで午後5時15分までです。
  • 郵送申請: 郵送で申請した場合、申請書が登記所に到達した日の翌開庁日の午前8時30分に受付処理がなされ、原則としてその日のうちに登記が完了します。

実体験からのコラム

  •  申請してから登記完了まで登記所で待機していると、残念ながら補正指示を受けて取下げに至ってしまう他の司法書士の方をお見かけすることがあります。書類の準備や記載事項の正確性が非常に重要であることを改めて認識させられます。
  •  弊所では、債権譲渡登記の申請は原則として法務局へ出頭して行い、登記が完了するまで待機するようにしております。繁忙期には、13時頃に申請して19時頃にようやく登記が完了し、最長で6時間ほど待機した経験もあります。
  •  弊所がなぜ出頭申請にこだわるかというと、軽微な誤りであれば、その場で修正して申請書の審査を継続してもらえるという運用がなされているためです(ただし、これはあくまで運用であり、常に保証されるものではありません)。幸いにも、これまで弊所では修正を要する事態には至っておりませんが、万全を期すための対応です。
  •  余談ですが、大量の登記申請の受付がなされ、処理終了に至るまでに閉庁時刻を過ぎた場合などは、登記事項証明書の交付窓口は閉庁時刻以降も受付がされています。現に夜19時以降も受付がなされ、無事に即日、登記事項証明書を交付していただけた経験があります。

債権譲渡登記申請なら、実績のある司法書士法人槐事務所にご依頼ください!

 債権譲渡登記は、「自己責任の登記」と表現されることがありますが、言い得て妙で、より正確な手続きが求められます。司法書士法人槐事務所では、これまで実際に債権譲渡登記申請を手掛けてまいりました。その経験と実績に基づき、金融機関の融資実務を円滑に進めるお手伝いをさせていただきます。

 債権譲渡登記に関するご相談、ご依頼は、ぜひ当事務所までお気軽にお問い合わせください。

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